社会人で大学院修士課程に進んだリアル——バイオメカニクスと徹夜と6人の仲間

キャリア・想い

理学療法士として5年目を迎えた頃、私はある疑問を抱えていた。

「なぜこの子は、踵をつけたまましゃがめないのだろう?」

足関節の可動域に問題はない。なのに、しゃがもうとすると後ろに転げてしまう。蹲踞の姿勢はとれるのに、踵を床につけようとした瞬間にバランスを崩してしまう。そういう子どもたちをクリニックで診るたびに、「洋式化というライフスタイルの変化」という一言で片付けることへの違和感が積もっていった。

答えを出したかった。でもその手段が、当時の自分にはなかった。


恩師との縁

新卒で就職した福島県会津若松市の職場の副院長先生——整形外科では珍しい女医さん——が、かつて昭和大学時代に福井勉先生(現 文京学院大学学長)と共著論文を執筆されていた縁で、私は新卒の頃から福井先生の臨床現場を見学する研修に隔月で参加させていただいていた。

福井先生の見立ての鋭さ、身体を「全体として読む」姿勢——そこから学ぶたびに、自分の臨床の解像度が少しずつ上がっていくのを感じた。

臨床実習指導者として学生を教えるようになったとき、「自分の知識をもっと根拠のあるものにしたい」という気持ちはさらに強くなっていった。そして2011年、福井先生の研究室に進むことを決めた。


17時退勤、18時半講義、0時帰宅

横浜市のクリニックで17時まで時短勤務をしながら大学院に通う生活が始まった。

17時に退勤→18時半から講義→21時半に終了→自宅に帰り着くのは23時から0時頃。

それでも「きつい」と思う暇もなかった。同期は6人。全員が臨床現場での疑問や解決したいことを研究で明らかにしようという、熱量のある社会人たちだった。徹夜でのデータ取り、深夜の統計処理、締め切り間際の論文作成——苦しい場面は数えきれないほどあったが、仲間がいたから乗り越えられた。


しゃがみ込み動作の三次元動作解析

修士論文のテーマは「しゃがみ込み動作の三次元動作解析」に決めた。

クリニックで感じ続けてきた疑問——踵をつけたまましゃがめない人が増えているのはなぜか——を、バイオメカニクスの視点から解明しようとした研究だ。

データを取るところまでは進んだ。しかし、踵をつけたまましゃがむために必要な運動力学的な要素がはっきりとせず、考察が行き詰まった。

しゃがむという動作は日本特有の文化的な動きで、海外の先行研究がほとんどない。参照できる文献が極めて少ないなかで、福井先生におんぶに抱っこになりながら、なんとか論文をまとめ上げた。

この研究は2012年の第47回日本理学療法学術大会で発表しました。ご興味のある方はこちらからご覧いただけます。
しゃがみ込み動作の三次元動作解析(J-STAGE)


大学院で得たもの

2013年3月、修士号を取得した。

バイオメカニクスを理解することの重要性、統計処理の考え方、そして「臨床の疑問を研究という形で掘り下げる」という姿勢——これらは今も私の臨床の土台になっている。

「理解はまだまだ発展途上」と正直に言えるのも、大学院での学びがあるからだと思う。本当の意味での難しさを知ったからこそ、謙虚でいられる。

そして6人の仲間。卒業後は疎遠になってしまっているけれど、あの徹夜の日々は忘れられない。


社会人大学院進学を迷っているあなたへ

修士課程に進んで後悔はない。ただ、きれいごとは言えない。

仕事との両立は想像以上にハードで、研究は思い通りに進まない。でも、臨床の疑問を「なんとなく」ではなく「根拠を持って」考えられるようになったことは、その後のすべての臨床に影響を与えた。

迷っているなら、飛び込んでみてほしい。きっと、臨床の景色が変わる。


このブログでは、理学療法士としての臨床・キャリア・働き方について書いていきます。同じ道を歩む方の、何かのヒントになれば嬉しいです。理学療法士を目指したきっかけについては、こちらの記事もあわせてどうぞ。
私が理学療法士になった理由——膝の手術台の上で見えたもの